FC2ブログ
12.02
Mon



瀧本哲史は著書『武器としての交渉思考』の中で、交渉には夢やビジョンといった「ロマン」と時間や金銭という「ソロバン」という2つの側面があるといった。
そして交渉にロマンという側面がある限り、いくらITが発達しても交渉がITに代替されることはないだろうと。
ロマンとソロバン両方の側面から複数の「人間」が話し合い、合意を結ぶ事によって「現実を動かしていく」、それが交渉であるという。

同じように、ダニエル・ピンクはアートこそがITによっても代替できない分野だと主張していた。僕も確かにそうだと思った。機械が生み出した「アート」なぞ芸術ではないと。そんなものに人間の心を揺さぶる力があるわけがないと思っていた。

でも、現実は想像を上回りそうだ。たしかにITの生み出すアートは人間の心には届かないかもしれないが、ITに気に入られたアートだけが消費者の目に触れるチャンスを得られる世界になりつつある。



今回のスピーカーであるケヴィン・スラヴィンが紹介する事例では、映画のストーリーにアルゴリズムが価値を付けている。
映画の脚本をあるアルゴリズムにかけると、この映画には3千万ドルの価値があるだとか、あの映画は2億ドルの価値があるだとかというように判断するというのだ。

アルゴリズムに脚本の価値なんてわかるはずがないと思うかもしれないが、事の本質はアルゴリズムの目利きとしての信頼性ではない。
スラヴィンの言葉を借りれば、アルゴリズムは世界から何かを引き出していたものであったはずなのに、いつしかアルゴリズムが世界を形づくり始めているということだ。

アルゴリズムに数万ドルの価値しかないと判断された脚本が映画化される可能性は、おそらく想像以上に低いだろう。
いつしか僕たちはアルゴリズムに気に入られた映画の中から、週末観に行く映画を決めることになる。


さらにスラヴィンは、アルゴリズムが世界を形づくり始めている例として、Amazon出品者のアルゴリズムによってあり得ないほどの高値が付けられた本の例を挙げている。
(この原稿を書いている2013年12月時点でも、Amazonには2千万円弱の値段がついているラブラドール・レトリバーのカレンダーなんてものもある。しかもこれは2008年のカレンダーだ。でもこれを実際に確かめるのはちょっと注意してほしい。Amazonには1-Click注文なんて物騒な機能があるので、興味本位でAmazonでそういった高額商品を検索すると痛い目をみるかもしれない)

幸い、Amazonで中古品にあり得ない高値をつけるアルゴリズムの暴走は、「現実を動かす」ことはなかった。
大量生産された数年前のカレンダーを求める買い手はいなかったからだ。そこにロマンが存在しなかったからだ。


でも、株式市場ではちょっと話が違ってくる。

本来株式市場は、株式会社の成り立ちが17世紀に東南アジアとの香辛料貿易で栄えたオランダ東インド会社にあるように、ロマンとソロバンが共存する場であった。

しかし、市場が発達し流動性が高まるにつれ、ロマンは消え失せソロバンが支配する場となり、アルゴリズム・トレーディングは出現した。現在、米国株式市場の70%がアルゴリズムによってトレーディングされているのだという。
アルゴリズム同士はマウスクリックの10万分の1のスピードで勝負している。到底人間の敵う相手ではない。
(そして、この勝負を制するための方法が、インターネットへの入り口であるコロケーションセンターのなるべく近くにサーバを置くという原始的な解決策である。物理法則の何と偉大なことか!)


取引は交渉の結果だ。交渉が人間ではなくアルゴリズムによって行われた結果、2010年5月6日、株式市場全体の9%が5分で消えてなくなった。このフラッシュ・クラッシュの原因について、未だ何が起こったのかはわかっていない。
ロマンなき交渉はとんでもない方向に「現実を動かして」しまった。

アルゴリズムは取引はできるが、まだ交渉は出来ないようだ。でも、それも時間の問題なのかもしれない。
クリストファー・スタイナーは『アルゴリズムが世界を支配する』といった。
そしてスラヴィンは『アルゴリズムが世界を形づくる』といった。

アルゴリズムが作った世界で、人間に残されるものはますます純化されていくように思える。それはロマンだったり、コロケーション・センターからの距離だったり。
アルゴリズムは否応なしに人間をそこへ向かわせる。



武器としての交渉思考 (星海社新書)武器としての交渉思考 (星海社新書)
(2012/06/26)
瀧本 哲史

商品詳細を見る
スポンサーサイト



このエントリーをはてなブックマークに追加
comment 0 trackback 0
トラックバックURL
http://tedvideo.blog.fc2.com/tb.php/10-a4247a36
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top